ハロウィンも過ぎて一月くらい経とうとしているのに、まだ吸血鬼とか言ってる人がいます。ここに……!
ただの思いつきなので深いところは全く考えてません。
物語の冒頭のようですが、これだけです。
拍手を押してくださった方、どうもありがとうございます。
まだ見てくださってる方がいるんだなぁと嬉しくなりました。
ちまちまと頑張りますね。
しまった、と思った。
吸血鬼が騒がれている世の中で、こんな夜更けに出歩いている人間がいると思わなかったのだ。
人の血を吸っている現場を見られたわけではなくとも、こんな暗い中で赤く光る瞳を見られたら言い逃れはできない。
吸血鬼とはいえ、ずいぶんと永いこと人の血を吸ってはいないのだけれど、それで許してくれる人間は少ないだろう。
ああ、日光ですぐ死ぬわけではないけれど、強い日差しに晒され続けては結構きつい。
それとも十字架だろうか。にんにくだろうか。どちらも苦手だ。銀の銃弾もできることなら勘弁して欲しい。
心臓を杭で一突きかもしれないな。痛そうだ。
新月の夜に遠くの街灯の光を背後に浴びる、その男の秀麗な顔立ちにわずかな驚愕がにじんでいるのを見た。
どう見ても見逃してくれるような優しいタイプには見えなかった。
次の瞬間にも吸血鬼だというだけで充分死に値するのだと、冷酷に告げるような男だ。
2色の変わった瞳を持っているのだなと、半ばあきらめたように、というよりも他にできることもなくただ見つめ合っていた。
後ろは背の高い壁だ。永く人の血を吸っていない自分では飛び越すことなどできないだろう。
「本当に吸血鬼なのか」
「………はい」
「正直だな」
「うそをついても仕方ないでしょう」
「見間違いか、目の錯覚かとも思ったのだが」
「それでも貴方は目を逸らさなかった。吸血鬼だと判断されたからではありませんか?」
「まあな。しかし本物の吸血鬼にお目にかかる日が来るとは思わなかった。実際、どのくらい長く生きているんだ?」
変わった男だ。
吸血鬼だと知っても、騒ぐことも逃げることもしない。
それとも殺す前の戯れだろうか。好奇心を満たしたいだけの。
「どのくらい長くといわれても……生まれてきてからの時間を計ることなどしませんし」
「年齢は?」
「人間のように1年ごとに年を足していっていたら気が遠くなってしまいます。途中からわけがわからなくなってしまいますよ」
「なるほどな」
不死の怪物と恐れられる存在に対するにはあまりに堂々たる態度だった。
物珍しさが故の質問は止み、わずかに訪れた沈黙の間に目を閉じた。
それで覚悟を示したつもりだったが、いつまで経っても処刑方法は示されない。
「お前が吸血鬼なら頼みがある」
すぐさま閉じた目を見開いた。
頼みがある、と言ったか? お前を殺そうとは聞こえなかった。
「はい?」
「頼まれてくれるなら、おれの持っている金をすべてやろう。家だって自由に使って構わない」
長く同じ場所で暮らすことはできない、根無し草生活の吸血鬼にとって願ってもない申し出だ。
あまりに魅力的過ぎて、何を言われたか一瞬わからないほどだった。
「それだけの価値のある頼みとはいったい何でしょうか」
「おれの血を吸ってほしい」
抑揚のない声は、それまでの質問と同じように淡々と響いた。
「な、何を言っているのですか?」
「おれの血を吸ってくれと言ったんだ」
「そうでなくて……私に血を吸われたらどうなるか、ご存知のはずでしょう」
「ああ、吸血鬼に血を吸われた人間は、死んでしまうのだろう?」
「………」
「言い方をかえよう。おれの血を吸って、おれを殺してくれないか」
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そんなわけで「吸血鬼ミュラーと死にたがりのロイエンタール」の話でした。
この後二人で吸血鬼退治とかに乗り出したり、傷がすぐに癒えるからとあまり自分を省みようとしないミュラーにロイエンタールが苛立ったりしそうです。
ミュラーが人の血を吸わなくなった理由とか、ロイエンタールの死にたい理由なんかにすごい大きな秘密があったりしそうですが、まったく浮かびませんでした。
このネタでもひとコマ漫画とか描きたいのがいくつかあるので、そのうち上げられたらなと思います。